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手鏡の思い出 

グリーン車の座席にいびきをかいて眠っている老人男性と涼しげな顔立ちの女性が並んで座っていた。女性はポーチの中から綺麗な装飾の施された小さな手鏡を大事そうに取り出し、やや暫く眺めた後にそっと目を閉じた。

女性「どうかしたの?」
子供「・・・。」
女性「どうしたの?」
子供「・・・いないの。」
女性「お母さん?」
子供「・・・うん。」
女性「君はどこから来たの?」
子供「・・・あっち。」
女性「ふーん。一緒に捜そうか?」
子供「・・・。」
女性「それじゃあ一人で帰っちゃおうかなー。」
子供「・・・やだ・・・。」
女性「捜す?」
子供「・・・。」
女性「私もね、探してる人がいるの。」
子供「・・・誰?」
女性「大事な人。私もね、君と同じで困ってるの。」
子供「・・・一緒なの?」
女性「そう。一緒だよ。だから、一緒に捜さない?」
子供「捜す。」
女性「決まりね。それじゃ、おんぶしてあげる。」
子供「・・・。」
女性「私ね、君のお母さんの顔を知らないの。だからね、君に見つけてほしいの。」
子供「・・・。」
女性「上からだと良く見えるよ?」
子供「・・・良いよ。」
女性「よいしょ!・・・こう見えても力持ちなんだよ。」
子供「・・・あっち。」
女性「うん。あっちだね?」

子供「あっ!ママいた!」
女性「よし!行くよ!走るから掴まっててね!」
子供「うん。」
女性「すみませーん!ちょっと待ってくれませんかー!」
女 「なんですかー?」
子供「・・・違う。」
女性「!すみません。人違いでした。申し訳ありません!」
女 「なにーこの人、キモイんですけどー。」
男 「ウゼー。マジ消えろよ!」
女性「本当にすみません!」

女性「間違えちゃった。ごめんね?」
子供「ウゼー!えへへ。」
女性「うふふ。」

子供「いた!あっち!」
女性「よし!行くよ!」
子供「うん。」
女性「すみませーん!ちょっと良いですかー?」
婦人「はい?何かご用ですか?」
子供「・・・違う。」
女性「ああ、すみません。人違いでした。申し訳ありません!」
婦人「いえ、良いのよ。気にしないで。」
女性「本当にすみませんでした。」
婦人「まぁ!かわいいお子さんね!いくつなの?」
女性「実は・・・。」
子供「・・・3歳・・・。」
婦人「そう!かわいいわねー。お母さんにおんぶしてもらって良かったわねー!」
女性「いえ、実は私・・・この子の母親じゃないんです。」
婦人「あら!それは・・・悪いことを聞いてしまったかしら・・・。」
女性「いえ!そういうことではないんです。」
婦人「あら?」
女性「この子、お母さんとはぐれてしまったみたいで、私、一緒に探してるんです。」
婦人「それは大変ねぇ・・・。」
女性「仕事でたまたま来たものですから土地勘も無くて・・・。」
婦人「それならこの近くに交番があるわ!一緒に行きましょう?」
女性「お願いします!ありがとうございます!」
子供「・・・ママは?」
女性「大丈夫!すぐに見つかるよ!」

警官「あー、今ですね、署の方に連絡したら、別の交番にお母さんがいるっていうことでした。」
婦人「ありがとうございますー。良かったねぇ。」
女性「はい!本当になんとお礼を言って良いか・・・。」
婦人「良いんですよっ!」
子供「・・・ママいた?」
婦人「大丈夫よー。もう少し待っててねー。」

男性「あーここだここだ。ここですよー。」
女性「・・・!社長!?」
母親「・・・!マーちゃん!どうして勝手にウロウロするの!!ママお仕事の途中だったのよ!!」
子供「・・・ごめんなさい・・・。」
母親「・・・ったく!忙しいときに、どうしていつも!」
婦人「ちょっと!その言い方は・・あら?」
女性「あの!!失礼を承知で申し上げますが!!」
母親「何?何なのあなた?」
女性「こんな小さなお子さんが迷子になってしまうのは母親の責任だと思いますが?」
母親「失礼ね。私だって忙しい立場なんです!こういうことくらいありますよ!」
女性「何を言ってるんですか?子供より大切なことって何ですか?」
母親「何ですかあなた!私はね、大事な仕事の途中なの!わかる?大体ね、」
警官「こ、この人はですね、お子さんをここまで連れてきてくれたんですよ。」
母親「そうですか!それはどーもありがとうございました!」
婦人「ちょっと!あなたね、そんな態度は、」
母親「もうよろしいですか?私は忙しいんです!謝礼はきちんとお支払いしますから、」
女性「違います!私はそういう意味で言っているんじゃありません!もう少しお子さんを、」
男性「ちょっといいかね?あなたね、もういい加減にしなさいよ。」
女性「し、社・・・。」
母親「ほらみなさい!私はね、この方と大事な仕事の話があるんです!あなたみたいな人間にはわからないでしょうけど!」
女性「え!?」
母親「わかった?私はね、あなたみたいにブラブラしてるほど暇じゃないの!立場が違うのよ!」
女性「それは・・・申し訳ありま・・・。」
男性「いい加減にせんか!馬鹿者!!!」
母親「は?」
男性「君だよ君!」
母親「私ですか!?」
男性「そうだ!君のことだ!!この大馬鹿者!!!」
母親「ですが!」
男性「その女性は私の秘書だ!大事な部下だよ!!」
母親「は!?」
男性「家庭の事情は良く判らんが、子供を連れて来るなら一言いってくれれば良いだけの話だ。」
母親「しかし、」
男性「良いかね。自分の子供すら大切に出来ないような人間が、お客様を喜ばせることなど出来んのだよ!」
母親「・・・。」
男性「君の努力は私も良く知っているつもりだ。だけどね、それは一体何の為のものだったんだ?」
母親「お言葉ですが、女がこの世界で勝ち抜くためには、」
男性「自分の子供を泣かせてまで何に勝とうと言うのだね?」
母親「ですが、」
男性「無事に見つかったから良いものの・・・亡くしてから後悔しても遅いのだよ・・・。」
母親「!!」
男性「昔の話だよ。」
母親「・・・はい・・・。申し訳ありませんでした・・・。」
男性「謝る相手は・・・ほら!」
子供「ママー・・・泣いてるの?怒られたの?ごめんね・・・泣かないで!・・・ぼく、今度はちゃんと待ってるから・・・。」
母親「うん・・・。ママのほうこそ・・・ごめんね・・・。」
子供「泣かないでよ・・・ママ・・・。」
母親「うん・・・。」
男性「さて、もう時間がないのでね、私たちは帰るよ。」
母親「あ・・・はい。今日は本当に申し訳ありませんでした。そちらの秘書の方も・・・すみませんでした・・・。」
女性「あ、私の方こそ・・・。」
男性「うん。これでもう私がこっちに出向くこともないだろう。」
母親「当然・・・ですよね。それだけのことをしてしまいました。申し訳ありません。」
男性「君に全て一任するよ。」
母親「え?」
男性「よし!帰ろう。詳しいことはまた後日連絡するよ。」
母親「ですが、」
男性「忙しいときはそちらのご婦人にお子さんを預けたらよろしい。」
母親「え?」
婦人「ここで会ったのも何かの縁です。任せてくださいな。」
男性「私の妹だよ。この街で幼稚園を経営してる。安心したまえ。」
母親「・・・はい。本当に・・・ありがとうございます。」
男性「じゃあね!マーちゃん。」
子供「・・・もうママを怒ったりしない?」
男性「もう怒らないよ。」
子供「本当?」
男性「本当だよ。」
子供「ホントにホント?」
男性「じゃあ、約束しよう。おじいちゃんはこれから絶対に怒ったりしない。」
子供「ほんと!?」
男性「だからな、マーちゃんもきちんとお母さんの言うことを聞くんだよ?」
子供「わかった!」


秘書「あの女性が今回の?」
社長「ああ、デザイン会社の女社長だよ。女手一つで大したもんだ。」
秘書「・・・申し訳ありませんでした。」
社長「何がだね?」
秘書「話を拗らせてしまって・・・。」
社長「・・・私はね、驚いたよ。君のあんな姿を見たのは初めてだったからな。」
秘書「お恥ずかしい所をお見せしてしまいました。」
社長「いや、嬉しかったよ。さすが私の秘書だ!」
秘書「・・・。」
社長「何か言ったかね?」
秘書「いえ、何でもありません。」
社長「しかし慣れないことはするもんじゃないな。」
秘書「と言いますと?」
社長「怒鳴りすぎて喉が痛い。」
秘書「大丈夫ですか?」
社長「君、いつもと感じが違うな。」
秘書「ご冗談を。」
社長「気のせいか。」
秘書「気の迷いかと。」
社長「そうだな。」
秘書「はい。」
社長「そういえばな、今日は娘の誕生日なんだ。」
秘書「それはおめでとうございます。」
社長「生きていれば、だけどな。」
秘書「・・・申し訳ありません。」
社長「良いんだよ。生きていればちょうど君くらいの孫がいただろうなぁ。」
秘書「・・・。」
社長「あ、そうそう、これを君にあげよう。」
秘書「手鏡、ですか。綺麗ですね。」
社長「色々見てまわってたけど、これに一目惚れしちゃってね。」
秘書「なぜ私に?」
社長「娘の写真の前に飾ろうかとも思ったんだがね。」
秘書「私には受け取れません。」
社長「いや、どうせ埃を被ってそのうち割ってしまうだろうし、」
秘書「ですが、」
社長「では返してこよう。」
秘書「そんな時間はありません。新幹線に乗り遅れてしまいます。」
社長「返してくる。」
秘書「受け取ります。」
社長「はっはっは。」
秘書「まさか、これを買ったからはぐれたとか・・・。」
社長「君の事も捜したんだけどねー。打ち合わせの時間になっちゃったんだよ。すまん。」
秘書「では、私は一体何のために?」
社長「あー、私ね、新幹線って乗り方知らなかったんだ。」
秘書「ご冗談を。」


  「・・・に到着しました。次の出発時刻は・・・。」


秘書「社長、着きました。さっさと起きてください。」
社長「お、おお、おお。着いたか。」
秘書「はい。着きました。降りますよ。」
社長「ああ、寝起きなんだからそんなに急かさないでくれたまえ。」
秘書「社長、」
社長「わかっとるよ。」
秘書「窓の外を見てください。」
社長「ん、んん。おお!マーちゃんか。迎えに来てくれたんだな。」
秘書「お母様もご一緒されてますね。」
社長「大きくなったな。たしか、」
秘書「5歳です。」
社長「そうか。早いもんだな。ん!・・・ほう。」
秘書「何か?」
社長「君もそんな鏡を持ち歩くんだな。」
秘書「何か問題でも?」
社長「いや、誰か良い男性でも見つかったのかな、と思っただけだよ。」
秘書「私は社長の面倒を見てるだけで手一杯です。そんな余裕はありません。」
社長「君ね、それはどういう意味だね!」
秘書「さ、降りますよ社長。」

秘書はそう言うと、綺麗な装飾が施された小さな手鏡を大事そうにポーチの中へとしまった。


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[ 2007/07/23 16:45 ] 会社員編 | TB(0) | CM(0)
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人物紹介

長編物語【茶碗山と夏休み】と人物像がリンクします。統合はまた後日・・・。


【父ちゃん】
仕事に家事に子育てと忙しい日々を送っている。息子達が自分の誇り。妻は蒸発したらしいが?


【兄ちゃん】
小学校4年生。気は優しくて力持ち。弟達がいないときは甘えん坊?時々頑固だったりいい加減になる面も。


【弟】
実は双子の小学校1年生。今はまだどっちがどっちかわからない?


【社長】
父ちゃんが勤める会社の社長さん。ちょっぴり変な人?


【社員・A】
父ちゃんと同じ会社の社員。背が高くて仕事も出来るけど、自分に自信が無いみたい。なぜか変な人に好かれるタイプ。


【B】
父ちゃんと同じ会社の社員。女性よりも男性が好き?今後の出番はあるのかな?


【彼氏】
毎度お騒がせの人。調子の良いことばかり言ってるけれど常識が無い。若者言葉を好むけれど、意思の疎通が出来ないことも?


【彼女】
毎度お騒がせの人。彼氏を振り回したり振り回されたり。若者言葉を使うことが多いけど、やっぱり意思の疎通が出来ないことも。

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